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2007年4月14日 (土)

40年前の秋田犬クロ

 40年前のクロへ

2_6きみは、僕がものごころついた頃には、もううちにいた。

父が勤務する会社の社宅が庭つきだったので飼うことにしたわけだけど、どういった経緯でうちにきたのかよくわからない。

ただ、僕にとっては、気がついたときには、僕よりはるかに大きいきみがそばにいた。自然ときみも家族の一員と思っていたし、きみのことが大好きで、覚えていないのだけど、父によれば、いくらひっくりかえされても僕はきみに抱きついていったらしい。

小学生のころ、「ひとはどうして動物好きになるのか」といったテーマで作文を書き、少なくとも自分は「生まれながら、こんな大きな犬といっしょにいたからだ」とつづったことがある。それはそうだと、いまでも思う。動物が好きか苦手かは、親や育った環境の影響が大きいのだろう。

僕は、親戚からよく祖父に似ているといわれてきた。祖父は、道で野良犬をみると連れ帰り、翌朝祖母がなかなか起きてこない祖父のふとんをめくると、抜け毛だらけのなかで、祖父とその野良犬がいっしょに寝ていたそうだ。ただ、僕はそうした祖父とは接していない。僕が知っている祖父は、もう体をわるくして寝ているだけだった。そしてまもなく、亡くなった。僕は祖父の動物好きの姿をみていないし、知りもしなかった。それでも、僕は祖父同様の動物好きになっていた。おそらく、祖父の影響をうけた父が秋田犬を飼いはじめ、僕のその後につづく動物とのつきあいも、やはりそこからはじまったのだろう。

何度も家から脱走し、近隣のひとをもまきこんで大騒ぎをおこしたという秋田犬クロ、力が強く、母の手にはまったくおえなかったクロ、そんなきみも、僕にはおとなしく、優しいイヌとしての記憶しかない。

のちに、「動物好きなどというのは、人間づきあいのわずらわしさから逃げているだけだ」と批難されたこともある。でも、幼児であったそのころの僕に人間関係のわずらわしさもへったくれもなく、同年齢の友達ともよく遊んでいた。それでも、クロといるときが一番充実したときをすごしていたような気がする。動物好きというのは、決して人から逃げているわけではないのだ。

クロ、きみはそれを、いまにして思い出させてくれる存在なんだ。

そんなきみに、僕らはひどいことをしてしまった。

父の仕事の関係で、都心に引っ越すことになり、そこは公団住宅でイヌは飼えないからと、父はきみをひとり、父の里である滋賀の叔父宅に送ることにしたんだ。

「なんで。なんで」

と何度も問いただした覚えがある。クロと別れなければならないなんて、考えられもしなかった。

でも、その日はきた。僕の知らないうちに、きみは滋賀へ送られていった。貨物として。

引越しの日、僕は近所のひとから餞別でもらった車のプラモデルをひざにかかえ、新しい都心の家で、だれとも口をきく気にもならず、ずっとぽつんとすわりこんでいた。部屋は暗く、新しいはずの畳が、やけに湿っていたような気がする。プラモデルなんていらなかった。僕は、クロ、きみといっしょにいたかった。

それからすぐのことだった。きみが蚊にさされて死んだときいたのは。そのときは「蚊にさされてなんて」と叫んだけど、フィラリアにやられたのだろう。いつか滋賀にいけば、またクロに会えると思っていたのに、ついこのあいだの引越しの別れが、永遠の別れになってしまった。

僕は、僕ときみとのあいだを、おとなたちが引き裂いたと思った。おとななど、信じられないと思った。人間ってやつは、自分の都合ばかりで、イヌなど簡単に捨てるんだと、人をも憎んだ。僕はいま、みごとな人間関係の苦手な人間になっている。それは、このときにスタートしたんだと思う。

その後、何度か滋賀にいったおり、先祖の墓のわきにつくられた、木の棒が立てられただけの、きみの大きさからすれば小さすぎる墓、それも何度か墓地の清掃のときにかたづけられてしまったところに立ち、先祖の墓そっちのけでおまいりしたっけ。

脱走はしたけど、それでも家族と思っていてくれた僕らから離され、ひとり心細く貨車にのせられたきみ。さぞや寂しかったろうきみ。そのまま逝ったきみ。僕はきみを捨てたわけじゃない。それは、わかってくれてるのだろうか。

いまでも、動物好きである僕の心の基礎にはきみがいる。大きく大きく、きみがいる。

僕はこれまで自分の引っ越しのたびに、いっしょに暮しているイヌもネコも連れてきた。ときにペット可物件がなくて、心労からどす黒い血を吐いたこともある。けっこう、必死だよ。でも、二度と、きみとの別れのようなことはしたくない。自分の都合で、イヌやネコを捨てることはぜったいにしない。それは、小さなお墓にいるきみと約束したことだし、いったん家族となった以上は、あたりまえのことなのだ。

40年前のクロ、40年も前のことだけど、きみとのことは、現在進行形なのだ。

いずれ、また会おう。クロ、もう一度、そう呼びかけたい。

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