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2007年7月 6日 (金)

グルを失った日

グルと過ごした日は、もう20数年前にもなる。

わたしは社会人となり、仕事やらその後の勉強会やらで、おまけに会社まで片道2時間もかかることもあって、毎晩帰りが遅くなっていた。

会社の近くに部屋を借りたかったけど、ラックとグルが待っていてくれることを考えると、とても離れて暮すことはできなかった。わたしは毎日、家族よりもかれらのもとに帰っていた。

Photo_36 ある日曜日、珍しく写真嫌いのグルが、庭の花の写真を撮っていたわたしの前にきて、さも「どうぞ」というようにポーズをとった。

「珍しいな」といって写真を撮ると、グルはさっさとその場を去っていった。なにか妙な感じはしたのだが、さして気にもとめなかった。

一週間後の日曜日の朝、夏だったけど冷たい雨がしとしとと降るなか、庭にいたグルが庭木の下に穴を掘り、そこでまるまっているのが目に入った。

なんでそんなとこにいるのかな、とは思ったが、その日は約束があって外出しなくてはならず、わたしはそのまま出かけていった。

夜、帰宅すると、グルはふつうに食事をし、とくに変わったようすもなく、わたしは朝のちょっとした疑問も忘れてしまった。

翌月曜日の朝、グルはまた、穴でまるまっていた。暑いからそうしてるのかな、でも…、などと気を残しつつ、わたしはいつものように出社した。

その夜、帰宅すると、玄関前に並ぶ敷石の上にダンボールの箱が置いてあった。

中をのぞくと、そこには、這いずるようなかっこうで冷たくなっているグルの姿があった。

家族に話をきくと。

昼間、グルはよろよろと家のまわりを歩きだしたのだそうだ。どうも、目が見えない感じだったらしく、歩きながらニャアニャア虚空に向かって鳴く姿は、なにかを探しているような…。

そして夕暮れ、母が隣人と玄関前で立ち話をしていると、グルは尽きようとする力を振り絞るように這い出てきて、敷石のところで、また通りに向かって何度も鳴く。その方向は、わたしが帰ってくる方向、その時間は、わたしが学生時代に帰宅していた時間、その場所は、帰宅したわたしが出迎えるグルとかわいがっていた場所。

隣人がいった。「あれは、お宅の息子さんを呼んでいるのよ。息子さんの姿を探しているのよ。いまにも死にそうなのに、一目会うまではって」

結局、わたしは間に合わなかった。グルは隣人と母が手を出しかねて見守るなか、敷石の上で息絶えた。その姿に、ネコ嫌いの母も、さすがにグルを哀れんで、敷石の上でグルがわたしを待っている状態のままにしておいてくれたのだ。

グルの死因はよくわからない。珍しく写真を撮らせてくれた日の前後、ふと彼女の腕にふたつの穴があいていた。牙がくいこんだような大きさだった。傷はもう治癒しかけていたが、思い当たることといえば、それしかない。なにかに感染し、命を失ったのではないだろうか。高熱があったから、少しでも涼しい穴を掘って入りこんでいたのではないだろうか。

その夜、わたしはただ呆然としていた。そして翌朝、目が覚めると同時に、グルとの思い出が頭のなかにあふれ出てきた。涙がとまらず、わたしはこどものように泣きじゃくった。ネコの死で、おとなになって、あんなに泣いたのは初めてだった。いまでもつらい。

わたしは、会社のことなど忘れた。気分が少し落ち着いた午後になって出社したが、会社にはなんの連絡もしていなかった。

当然、上司は怒った。理由をきかれて、「ネコが死にまして」とだけいうと、即刻「もういい」と追い払われた。あの日、わたしは社会人失格となったのだろう。

でも、立派な社会人だのなんだのといった評価なんかよりも、必死にわたしを求めてくれていたグルのほうが、よっぽど大事だった。

その後ほどなく、以前書いたように、ラックをも失った。そして、わたしは家を出た。

イヌやネコの飼えない、都内の公団住宅の一室へ。

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