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2007年8月 3日 (金)

「すみれ」来る

1 ネコの「すみれ」の話 つづき

あれは、スミレの花が咲く季節だった。

その子ネコは、ある商店の店先に、鳥かごに入れられていたのだという。

「誰かもらってください」の紙とともに。

わたしはその現場を見ていないが、この話をきいたときも、いまみなお、子ネコの入った鳥かごが店の軒下にぶら下げられている光景が脳裏に浮かんできて、そうだったに違いないと思い込んでいる。実際は、違ったのかもしれないが。

ともかく、通りがって見かねたものがいて、そのひとが、前相談もなく、いきなりその子をひきとってうちに連れてきたのだ。

「芝田だったら」と思ったようで、そして、果たして、その通りになった。小さなその子を見るなり、わたしは覚悟をした。飼育環境はよくないが、いままでの経験を生かして、この子の面倒をみようと。もうひきとってきてしまったものはしょうがない、というより、自分がネコのぬくもりに飢えていた。

スミレの季節に来たから、名は「すみれ」。オスだったけど、そう決めた。

ただ、ひとつ問題があった。当時のわたしの家が公団住宅だったという以上に大きな問題。そのとき、すでにわが家は鳥だのリスだのといった小動物でいっぱいだったのだ。

ネコにすれば、お菓子の家に来たようなものではないか。

わたしは、すぐに板と金網を買ってきて、鳥たちのいる部屋の入り口に鍵もかかる網戸を作りつけた。「すみれ」はなかを気にしていたが、網も戸自体も結構頑丈に作ったため、とりあえずひと安心となった。

ところが数日後、わたしはずっと家にいたのだが、何気なく網戸の前を通ると、網のてっぺんがめくれて、大きな隙間ができているのが目に入った。

「しまった! すみれが網をよじのぼって入ったんだ」

わたしは、鳥たちの部屋へ飛び込んだ。しかし、その室内は何事もなかったように、いつもののどかさをたたえている。

「すみれ」は、窓際に置いてあった鳥かごの上で、日向ぼっこをしていた。かごの中の鳥も、恐れ騒ぐ様子はない。横にいるリスたちも、ハムスターも、平穏なままである。

「なんだ? この光景は」

一瞬、なにかを見間違っているのでは、と思った。

どうして、そろいもそろってネコを恐れなかったのかはわからないが、少なくとも「すみれ」側は鳥もリスもハムスターもウサギも、餌として認識していなかったようだ。というより、生き物とも思ってなかったのではないか。でも、網戸を破ってまで入ったのはなぜなのだろう。そうまでして、鳥かごの上で日向ぼっこがしたかったのだろうか。彼にとって、鳥かごは安心できる場所だったのだろうか。

わからない。

数日なりゆきを見ていたが、「すみれ」と小動物たちとの間にトラブルはまったく起きない。翌月には、わたしは苦労して作った網戸を廃棄することにした。そして、わたしが留守の間でもなにも起きることがなく、鳥かごとリスかごの間が「すみれ」の常の寝場所となった。わたしの心配も、雲散霧消した。

それにしても…。

このときの鳥たちは、「すみれ」がそばにいても平気なのに、窓の外をよそのネコが通るときは、警戒の大騒ぎをしていた。ということは、ちゃんとネコを見分けていたようだ。でも最初から「すみれ」の性質を見抜いていたということなのだろうか。ちょっと、不思議な気がする。

かくして、「すみれ」との生活が始まった。「すみれ」は完全室内飼い。わたしはそのころ、漫画を描くことに専念するため会社を辞めていた。わたしと「すみれ」は、ほとんど一日中、いっしょにいることになった。

つづく

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