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2008年3月16日 (日)

柴犬・幸四郎

メグの件があった一週間たつかたたないころ、「子イヌが生れるから、ひきとらないか」という誘いの電話がまたかかってきた。

でも、メグの場合はやむを得ないこととして、やはり積極的にイヌを飼う気にはならなかった。

ただ、いつかは飼おう。そのときは、小型ではなく、世話のたいへんな大型でもなく、ボーダーコリーあたりを憧れの犬種にしておこう、などとは考えていたけれども。

しつこくかかってくる電話に何度も断っていたある日、また裏のおばさんがやってきた。いきなり、

「約束どおり、わたしがイヌをさがしてくるから」という。

約束なんかした覚えはない。あわてて、

「いいえ、そんなことしなくていいんです。ほんとにいまはイヌを飼う気はないんですから。メグの場合は緊急事態でしたから…」としきりに手をふって見せる。それなのに、

「いいから。まかしといて。これでも責任感じてるんだから」

おばさんは、勝手にいうだけいって帰っていった。そして、2~3日したら、またまたやってきた。

「わたしのいってる獣医さんとこに、保護されてて里親を求めてるイヌがいるんだよ。その獣医さんがはいっているマンションの上に住んでいるひとが、横浜の町をさまよっていたそのイヌを保護して、都合よく下の獣医さんに預けたんだけど。そのうちには小学生のこどももいてね。イヌに新しい飼い主ができるかどうか、毎日心配しているんだよ」

例によって、まくしたてるおばさん。話を理解しようとしつつ、途中何度も断っていたのだが、まったくきいてくれていなかった。

「わたしがひきとれればいいんだけど。うちには、ネコがいるからさ」

知っている。黒ネコの「さっちゃん」だ。よく我が家の庭にもやってくる。でも、ネコならうちにもいる。それも3匹も。

「うちもネコで手いっぱいなんです。無理なんです」

あくまでもそう拒絶すると、おばさんは、

「明日にでもそのイヌを連れてくるからさ。一目みてから決めてよ。見るだけでも、さ。ねっ」

とだけいって、その日は帰っていく。連れてこられたら、たまらない。一目見てしまえば、もう断れなくなる。それは、自分でよくわかっていた。

「だめです。連れてきたりしないでください」

そう叫んでも、おばさんはこたえなかった。

翌日、おばさんはイヌを連れてきてしまった。

「子イヌじゃなくてわるいね。獣医さんは、2歳ぐらいの柴犬っていってたけど」

そのイヌは、おばさんの横で、おどおどしながらこっちをチラチラ見ていた。2歳のわりにはなんかじじくさい感じがする。これも、町をさまよっていたせいだろうか。これまで、どんな日々を過ごしていたことか。

ああ、だめだ…。

やはり、もう断れなかった。目のまえにしてしまえば、見捨てることなどできるわけがない。どうしようもないじゃないか。

わたしは、イヌのリードを受け取った。

「それじゃ、よろしくね」

おばさんは、満足いっぱいの足取りで帰っていく。どうしようもないのだ。

わたしは、そのイヌを家の中につれてはいり、不安だらけで小さくなっているその子の名前をまず考えた。ちょうど、テレビで松本幸四郎さん主演のドラマをやっていた。安易な気もしたけど、すぐに、イヌにも「幸四郎」と名づけた。ついでに、苗字も「松本」にした。このイヌは、これからは「松本幸四郎」だ。つけてみると、もうそれしかないように思えた。ネコたちは、どこかへ姿を隠した。しばらくすると、チャミだけが出てきて、離れた位置からこっちをじっと見ていた。

「幸四郎」は、どんな名前にも興味なさそうだった。下目づかいにこっちを見つづけ、なんとも、弱々しい姿。体は小さくふるえているようだし、ゼイゼイとちょっと咳き込むような息をしている。そのうえ、わたしがちょっとでもそばから離れようとすると、とたんに「ヨヨヨヨヨォーン」と大きく悲しげな声をあげる。おとなしいことは、おとなしいのだけど…。

これは、手のかかるイヌをひきとってしまったのかも。

そう思って、とりあえず一晩すごした。幸四郎のそばにひっついて。

翌朝、その頃すれ違いが激しく、もう顔をあわせる時間も少なくなっていた当時の妻と、たまたま面とむかった形で顔をあわせた。裏のおばさんの行動については、少ない時間でも一応伝えていたのだが、彼女は幸四郎をみると、こうなると思ったという顔をして、またそれとは別のことをいった。

「このまえ、あなたがいなかったとき、また子イヌをもらってくれって電話があってね。どうしても貰い手がつかなくて困っているっていうから、ひきうけといたよ」

一瞬、頭の中が空虚になった。なんだって?

「イヌはパグだって」

妻はそれだけ伝えると、自分の仕事にでかけていった。

柴犬がきた。もうじき、こんどはパグがくる。

なんてことだ! なにがどうなって、こうなるのだ!

しばらく、その場を動けなかった。

とりあえず、わたしの頭から、憧れのボーダーコリーが姿を消した。

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コメント

パグの文字を見て!
思わず「出てきた~モモちゃんだ~」と頬が上がってしまいました。
それにしても、隣のおばさんパワーに負けてますねぇ(笑)

是非、たくさんのわんこ、にゃんことの生活を1冊の本にして
いただきたいです。

投稿: ひめちゃんママ | 2008年3月18日 (火) 00時29分

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